タイタン 試乗 レポート 中台 章
4月19日、成田税関にタイタン・サイズMを受け取りに行く。いつもそうなのだが、必ず大切な試乗会前日に緊急輸入という冷や汗物のパターンは、この仕事をする上でもはや定番と言える。明日はF1第一戦、NASAステージである。
翌朝、はやる気持ちを鎮め、法定速度を守りつつ足尾に向かう。この時、既にダミーとしてフライトテストをする事を心に誓う。この仕事での最大の醍醐味は、常に国内において最初に最新の機材をテスト出来る事だ。そして、自分の感性を駆使しユーザーやその機材を待ちわびるパイロットに言葉や文章で説明を行う事が目的である。テイクオフに到着すると既に10機以上がソアリングを行い、ブロー交じりのテイクオフは、大会前にフライトしたいフライヤーで混雑している。ブローは、時よりかなり強く、離陸直後のグライダーは、あおられ気味である。しかも先ほどまでトップアウトしていた機体が下がり始め、テイクオフ下に移動して行く。しかも雲が少し出てきた。・・・最高のコンデションだと思った。余りにも良すぎるコンデションでは、ある意味テストには不向きである。より渋いコンデションの中でしか得られない事や荒れた大気の中でしか解らない事が多々有るからだ。
立ち上げはクロスハンドで行う。アスペクトは、ほぼターゲットと同様である。クローズエアーインテークである事を一応心に命じた。立ち上げる時、均一にキャノピーが上がって来る。しかもオープンエアーインテークと変わらない。プロジェクトをイメージしていたのだが、全く違う立ち上げリ方、エアー流入である。褒め過ぎかも知れないが、ある意味オープンエアーインテークよりスムーズなのである。
離陸直後、案の定ブローにあおられた。低高度では緊張する。直ぐに上昇帯に出くわすが回せる程の高度は無い。他の機体を観察すると、テイクオフ付近でソアリングする機体が数機いる。後ろを見回してもテイクオフと同高度の機体しかいない。しかし、プラス1000mの雲低には、既に10機以上が取り付いている。つまりタイミングとしては、外した状態である。
リッジを攻めるが高度維持が関の山である。テイクオフ前のコンディションが一番良い為、数回行き来するが、これでは離陸したい機体の邪魔になる可能性もある。仕方なく南斜面に移動するが、レベル以上は望めない。ランデイング上空を見ると弱いサーマルでセンタリングをしている機体が1機。それを見、山肌を離れランデイング方向へ向かう。200mも離れると弱いサーマルに当たる。ゆっくりと回すが、バリオが鳴らない。そして、再びランデイング方向へ移動する。ここで気づいた事は、直線フライトでのスムーズな乗り味だ。イフェクトともプロジェクトとも全く違う。
速度的には、プロジェクトに匹敵するほど速い。ちなみに私は今回、Mサイズ(80〜100kg)を試乗している。装備重量は87kgである。そして、ここで弱いサーマルをヒットする。回すが、とにかく弱く0.5m/sで上昇する。3回ほど回すと、とりあえず弱いながらも上昇はする。上を見上げると、遥か1000m上空にハング、パラが取り付いている。バリオは、時より音を出さなくなる。しかし現段階では、最も確立の高い、このサーマルに賭けるしかない。既にテイクオフから100m近くロスしているからだ。バリオの音と右旋回に神経を集中する。
数分が経過した。幸運な事に、そのリフトの位置は垂直に上がっている為、どこにも流されず位置がキープ出来た。その数分後チャンスは訪れた。上昇率は好転したのだ。プラス1m/s程度になりセンタリングにメリハリが出来る様になった。ここで気がついたのは、コントロール性能の高さだ。弱いサーマルに対して最小限度の沈下で安定した旋回が出来る。イフェクトであれば既にサーマルから離れざる終えなく、またプロジェクトであれば微妙なコントロールに神経をすり減らし加速減速を使い分けなくてはならないはずである。
しかし、タイタンは常に引いたコントロール量に穏やかに反応し理想的なセンタリングを無理なく行えるのだ。これは今までに感じた事の無い感覚である。そして上昇率が高くなり10分を掛け、やっとトップアウトする
センタリングという基本的な性能の違いを確信した。その頃には大会選手をはじめ、低高度をフライトする20機が下方からそのサーマルを目指して来た。一人だけで探したサーマルに皆が飛びついて来るのはパイロットにとって幸せを感じる瞬間だ。
よりコアに近付けるように、微妙なコントロールを行う。一旦コアを掴むと右手だけで自由自在に操れる。とにかく機体が肩の上に生えているが如く追順しているのだ。プロジェクトであれば、サーマル内で時より旋回外翼が先走りを起こし、それを引き止める為のカウンター操作が必要なのだが、とにかくタイタンは左右の肩と翼が常に同一なのだ。サーマルから、こぼれた時のお釣りも少なく戻る時にもとにかく安定している。テイクオフから500m上げると、より多くの機体が下方に群がる。しかし距離が近くなる事が無い。常に一定のリズムで上昇をすると頭の中に一つの事を思い出した。タイタンの催促でオーストリアのテストパイロットに電話をかけた時、彼はしきりにタイタンのコントロール性能の高さを強調したのである。そして、今やっと彼が説明したい事が理解できた。
上昇率と共にサーマルは南方向へ傾き出した。雲低までは、このまま行けば10分以内で到達できそうだ。既に私のテスト項目の一つは終わった。そこを離れ一度テイクオフに戻り、尾根づたいに、また南に戻る。上昇風帯を抜けてもスムーズに滑る様に滑空する。上空には、先ほどの一団の中の数機が雲底に付けている。そろそろアクセルのテストである。踏み応えはスムーズに動く。フルアクセルには僅か23cmしか必要としない。
データ上では52km/hまで加速出来る。踏み始め、ハーフ・フルアクセル共にスムーズである。特に加速感は特筆物で、常に一定な加速感。しかも沈下速度も急に悪化せず、常に一定の率で速度と比例する。計測して見れば、その理由は一目瞭然でA・B・C・Dラインは、最大4cm差で均等に迎え角が変化するように出来ている。
アクセルテスト後、ロールをしてみる。これも先ほどのセンタリング同様、常に身体の向きと同調しバランスの良さが伺える。またロールさせるに必要なコントロールストロークもプロジェクトより長くイフェクトより短い。ピッチ安定は素晴らしく、常にストローク量と同調する。とにかくこの運動性に関しては”軽快”と言う言葉がピッタリかもしれない。
ストロークの重さは、イフェクトよりかなり軽いと言える。しかしストール寸前の警戒を与える部分では、かなり重くなる。
一通りテストを終え、ランデイングを飛び越し国道に出る頃には、シアーの為か、かなり対気が不安定である。また時折バリオも派手に鳴り出す。慎重に操作し、もしもに備えていたのだが、急激なピッチアップに対しても収束が良く、大きなピッチングに至らない。そして左右に揺さぶられるような状態でも安心感が非常に高く、イフェクトに乗っている錯覚に囚われる。しかしイフェクトとの最大の違いは、より軽く少ない操作で直ぐに安定モードに入れる事だ。
翼端折をしランデイングに向かうと、そのままでもバリオが鳴ってしまう。しかし、その時でさえ、なぜか安定しているのである。翼端折の左右差だけで旋回を行い、アプローチに入ると滑空比調整も翼端で行う。
着陸直前に翼端を離しフレアーをする。満足感と充実感で全身が満たされテストを終えた。この40分程度のフライトの満足感は近年味わったことのない心地良さである。
フルアクセル時。A・B・C・D の差は4cmとなり約完璧な迎角バランスを造り出す。ちなみにフルストロークでも約23cmの踏みしろは誰でもが使い安い。約12cmのA〜Dライザーでの差で52km/hまで加速出来る事も特筆物だ。 複雑に見えるが高速化と効率を両立させた新設計のライザーが装備される。重さ、踏み心地どれを取っても以前の同社設計の中では一番考慮されている。
ちなみに、アクセルへの金具の接続はライザー外側から。