DHV(ドイツハンググライダー協会)安全基準


 DHVは、ドイツ運輸省の下部組織としてドイツ国内に於けるハンググライダー・パラグライダー・レスキューパラシュート・ハーネスなどの安全基準を定める期間として活動を行っています。ドイツ国内における強い拘束力、テストの公平性・客観性・信頼性も高く、周囲の国々を始め各国のスカイスポーツ団体に対して大きな影響を持っています。
 DHVの全てのテストはメーカーから提出された申請書に基づいて審査が行われます。例えば新型のパラグライダーの申請が提出されると、地上での数種類の強度テストやフライトテストを通じ(DHVが定める)どのクラスやレベルに適合するかの判断を下し証明書が発行されます。
 こうしてテストが終了し、メーカーは一般販売を始めるのです。強度テストやフライトテストで実際に使用した全ての機材は証拠品として保管されています。承認後に何らかの問題が起きると、封印が解かれ原因を追求するシステムが構築されています。こんな所にもお国柄が表れています。

強度テスト
ショックテスト:ロープを弛ませた状態から車両を走行させ、キャノピーとラインにショックを与える。最小荷重7500kg
ロードテスト:車両を使いトーイングを行う。最大飛行重量の6G以上

フライトテスト
 DHVの基準では、フライトのテスト項目やその方法についても細かく定められています。それによって起きる反応や状況の変化に応じてクラス分けが行われます。それでは幾つかのテスト項目を例に取りシュミレーションをしてみましょう。

具体的なテスト項目
 ここではテイクオフを例に説明を進めます。まず一般的な条件として、「キャノピーを地面に左右対称に広げ一定の力を加え立ち上げる方法により行う。」またこの時力を入れたり、ブレークコードによるキャノピーに抜かされない為の操作を行ってはなりません。もし特別な立ち上げ技術を必要とする場合はメーカーによってテストパイロットに通知しなければなりません。この前提のもとに次の項目についてテストが行われます。
1 1−2 2 2−3 3
空気のはらみ具合 平均且つ素早い 均的でなく遅れる
立上がり特性 頭上に直ぐ来る 頭上に直ぐに来ない
途中で止まる
頭上を越えブレーク操作が必要
テイクオフ
スピート
失速速度30km/h以下--------------失速速度30km/h以上
立上げ時のハンドリング 簡  単
普  通 技術が必要

以上の項目に対しテストが行われ、それぞれのスケールが決められます。クラス1や1-2のパラグライダーならば特別な操作なしで立ち上がります。皆さんの場合を例に取れば、自然に身に付いてしまった余計な操作により立ち上がり難くくさせてしまう場合もあるでしょう。
 紹介したテイクオフはほんの一例に過ぎません。DHVのテストフライトは14項目40種類に及び、1つ1つに細かい方法やスケールが決められています。もちろんテストは最大飛行重量と最小飛行重量と条件を変えて行われます。一般的には最大飛行重量時のテスト結果は、最小の場合より厳しい挙動を示す傾向があります。これら決められたスケール以外に、テストパイロットが自由にコメントを記入できる欄も設けられています。

スケールの落とし穴
 DHVでは14項目の総合的な判断でクラス分けが行われることは説明してきた。仮に13項目全てクラス1であっても、1項目だけでも1-2があればこのグライダーは「クラス1-2」とDHVは認定します。飛行重量の最小・最大どちらに於いても「このグライダーはクラス1-2」と言われます。しかし最小飛行重量時に限定すれば「クラス1」に全てが入る場合も考えられるのです。
 反対にクラス2のグライダーと言っても項目の中には2や1-2、時には1が混在しているのが現実で、DHVのクラス分けは「どのクラスにある」という目安に過ぎません。日本国内では単に「クラス2」と言っても、実にたくさんのパラグライダーが購入可能です。皆さんの間でもDHVのクラス分けはかなり浸透してきていますが、これからは各テスト項目のスケールにも着目してみましょう。それにより正しく各のグライダーを理解することができるでしょう。

問題点
 DHVの規則は非常に厳しい基準で行われています。そのためテストに費やす時間が長くなってしまう。特に気象に左右され易いこのスポーツの特徴のため、数週間もテストフライトができない場合もあり、当然メーカー側にしてみれば新機種の発売が遅れてしまうという問題があるのです。その裏にはテストパイロット不足という別な問題も潜んでいます。
 一般的に1つのモデルがDHVの承認を無事受けるのには1〜2ケ月を費やします。またそれに関わる必要経費もメーカー側にしてみれば頭痛の種になります。モデルごとに各サイズを複数機用意しなければならず、近年の販売機数の落ち込みに苦しむメーカーにすれば採算が合わない出費となるのです。

テストパイロット
 テストパイロットは、メーカーや開発に携わっていない公平な立場の人間でなければなりません。また最小・最大の適正飛行重量でテストを行うために、それに応じたパイロットがいなければなりません。ここで問題になるのが体重です。不足分はウエイトで調節できますが、超過分はどうすることもできません。現在装備重量が65kg以下のパイロットがいないことが、適正飛行重量ぬ数値にも反映されています。
 仮に最低飛行重量が65kg以下のパラグライダーがあったとしても、現実的にはそのテストが行えないのです。特に軽量パイロットが多い日本にあって、スペック上の数値だけで判断せることが必ずしも正しいとはいえません。先にも触れているように最小飛行重量でのテスト結果のほうが好結果がでていることがあるのです。

最後に
 過去にDHVはメーカーやマーケットの状況に合わせて基本的な基準を変更してきました。しかしそれが常に現状に全て合っているかと言えば、疑問が残ります。どんなルールにも全員が満足することができないように、合意点を見つけることが大切です。国民性の違いはあれ、DHVは安全に対して内容に関わらず情報公開を行い、常にパイロットに注意を促しています。この基本姿勢こそが大きな信頼を受ける源となっているのです。
 
 ※DHVではフライトテストの項目や方法に付いて問題点が見つかれば、検討の結果見直しが行われています。現在の基準は98年1月に施行された新基準が採用されています。

ここで申請から承認までの一連の過程を簡単に説明してみましょう。

申請書の提出

強度テスト
 ライン強度テスト
依頼者:ラインの折り曲げテスト・A/Bライントータル強度
DHV.:ショックテスト・ロードテスト
                      ------強度証明の発行@

フライトテスト
  依頼者:マヌーバービデオの提出
依頼者:メーカー所属パイロットによるデモンストレーションフライト
  DHV.:DHV所属パイロットによるテストフライト
                      -------フライト証明の発行A

DHVの承認(@Aの両方が必要)