プロデザイン イフェクト       テストリポート 中台 章


カテゴリーキラー
クラスを越えたイフェクト

 プロデザイン社はオーストリア・インスブルックでパラグライダ―、ハーネスそしてレスキュー等をトータルに製作するメーカーだ。創立は1986年それ以降数々のグライダーをマーケットに送り出してきた。
同社のマーケットでのイメージは堅牢な造りそしてモデルチェンジを安易に行わないライフサイクルの長い製品造りではないだろうか。

 2000年モデルとして今回リースされたのがEFFECT である。イフェクトとは"効果がある、または"影響を与える"という意味を持つ。ネーミングとしては少々変わっている印象を受ける方も、いるかも知れない。しかし、この名前ある意味において"効果"を示すことがこのレポートを読んだ後には理解して頂くことが出来るかも知れない。


スペックを読む
 スペック上でのイフェクトを分析してみると幾つか気が付く点がある。まず投影でのアスペクト比は3.63(各サイズ共通)と決して低い訳では無い。そして、同社のリラックスと比べると、僅かながら高いのだ。しかし実測(地面に置いた状態)では僅かだが今度はリラックスが上回る。そして、コード(翼弦)はイフェクトの方がやや細身である。つまり外観の上は現行のプロデザイン社のターゲットとリラックスとの間に属するのである。装備重量の下限と上限差は20kgになり(今までは25kg)よりスイートスポット(性能を出すウエイトレンジ)が明確になったと言えよう。

 スペック上最も目を奪われるのは速度ではないだろうか。失速速度は22Km/h。フルリリース時の最大速度は37km/hそしてアクセルを使用しての最大速度は51km/hまで(これらの速度はDHVによる計測)達するのである。これは同社ターゲットと比べて見てもアクセル使用で1km/h優れているのだ。スペックとしては同社のマックスと全く同じなのである。


新世代
 聞き流してしまえば特別な事でもなく、ましてはクラ2程度では当たり前になりつつあるこのスペックは、クラス1で達成出来た事に大きな意味を持つ。パラグライダーが開発され約15年が過ぎた。そして当初からの念願であった"高性能かつ高安定性"という相反する課題に対し一つ時代が築かれたというのは大袈裟なのだろうか?少なくとも冗談とも無く語られてきたクラス1のコンペ機が夢物語では無いと言うことが証明されたのでは無いだろうか。 
    

テイクオフ
 前日に降った雪は3月としては記録的な量になりTOまでの林道は4輪チェーンでも困難を極めた。新品のグライダーを袋から取りだしテイクオフに立つ。期待と緊張。テスト項目を頭の中でシュミレーションを行う自分にとって最も自分らしさを発揮出来る瞬間でもある。
 雪に覆われ足場が悪く弱いサイドの状況はある意味このグライダーに取って好都合である。クラス1の最初の目的である"技術を要さず、簡易なテイクオフ"が本当であるかが確かめられるからだ。左右のバランスに注意を払い立ち上げると適度なテンションを腕に感じる。リラックスに比べ滑空に入る直前に重さが増幅するでもなくスムーズさが際立った。しかも、ターゲットの様にアスペクトの高さを感じる様な敏感さは微塵も感じられない。立ちあがりから滑空まである一定のテンションが持続するクラス1を実感。そして立ち上げ特性の良さが特徴とも言える同社の中でも好みの問題があるにせよ、その素直さは最も優れていると言えるだろう。

 滑空から離陸までは、短い距離で空中に出る。足場が悪いだけに助けられた。離陸した直後、まだ機体が安定する前に急激なフレアー操作を行ってみる。これは初心者が行う最も危険な操作である。迎角が一瞬にして上がり、いわゆる高速失速を起こすのである。その後のフルリリースにもさして大きなタックに入らない。もう少し対地高度を取り繰り返すがリリース後の収束の早さ、そして安定度のレベルは高い。勿論私より手が長く力のあるDHVテストパイロットがこれらのテストを既に終えているのだから当たり前と言えるであろう。そしてここからはDHVがクラス1を保証している以上、彼らの行わないテストをおこなっう事に集中する事にする。


速度とハンドリング
 フルリリースでフライトを行うとある事に気が付く。いつも飛び慣れているエリア目標物が視線の中で早く過ぎ去って行くのだ。スペックを見れば当たり前なのだが・・・。そして、その速度で今までフライトしていた機体はある程度直線飛行時でもサイドの風やリフトの中で微妙にコントロールを強いられる。この機体は直線飛行においてもクラス1なのだから当然の事なのだ。とはいえ今まで経験の無い事なのである。
 左右にローリングを行いロール方向へのハンドリングをテストする。引きしろに対してタイムラグ無しに方向を変える。引く量を増すと重さは増加するのだが、リラックスに比べ、その重さ自体が10%以上軽く感じる。しかし確実に方向を変えるのだ。その後ラフにリリースしても挙動の収束が極めて早い。サーマルセンタリングには効果を発揮する事は明白である。

 ある意味において期待を裏切られた。何故なら、どうせクラス1なのだから運動性能もと勝手な思い込みをしていたからだ。理論的に考えてもクラス1に合格させるためには、ディープスートール(翼の形を保ったままの失速)で70センチ以上を確保しなければならない。メーカーとしては少し甘めにセッテイングしたいところと考えた。場合によってはコントロールラインの遊びを多めに取る等の手法を取る事しかり、しかし、そこには妥協の微塵も無かったのだ。


アクセルとライザー
 今回のアクセルを踏むという行為は私にとっても意味を持つ。フルアクセルでは最大飛行重量時51KM/hが出せる。私はサイズ34をほぼ真中の85kgでテストした。構造上イフェクトには、かなり見なれないシスステムが採用されている。4個の滑車から成り立つ、それは3個がAライザーに取り付けられている。簡単に説明すると、まず上部でA.Bライザーは1つになっていて、まず2つの滑車がA・Bライザーを引き下げる。遅れる事20mmでAライザーのみが引き下げられ、それに追順し滑車を介しCライザーが引き下げられるといった今までに無い凝った作りだ。しかし殆どのパーツがAライザーに集中するためチェツクすれば絡まる事は無いであろう。因みに、51km/hのフルアクセル時はクラス1-2となる。個人的な考えかも知れないがこの速度において1-2であれば十分と考える。

 ゆっくりと踏み込んで行くと滑らかに加速を始め、大気速度が上がる。私の装備重量では50km/hに満たない。バリオは3m/s程度で落ち着いた。この程度まで今までのグライダーで加速させると踏む時も、ある程度神経を使ったり、最高速に達するまで、そして達した後、挙動に対し安心感は持てない場合がある。だがイフェクトでは何ら違和感、または不安感が無いのだ。荒れている大気ではそうは行かないだろうが、まるで通常滑空と変わり無い安定感がある。今までに感じた事の無い言い知れぬ感覚だ。勿論36km/hで方翼潰しで1-2になる機種があるのだから、51km/hでも1-2という意味はここにあるのだろう。
 また、この全く新しい考えのアクセルシステムと機体のマッチングにより、この速度においても1-2を可能にしたのであろう。そしてそれに必要なのはたった23cmのストローク量である。特別な使い方をしない限り2段式アクセルは無用であろう。4個の滑車によりハーフアクセル等、中間位置のホールド性が良い事は特筆物である。

 アクセルとの接続にはステンレス製クイックリリース金具が使用される。ここでアクセルバーに付いても触れておこう。近年のプロデザイン社のバーには、数々の改良が見られる。まずバー自体の素材は、長方形の樹脂素材となった。また両エンドには専用開発したウエビング(帯び)を通すプラスティック素材が採用され、強度、安全性そして形状から来る踏み易さは努力の後が伺える。ハーネスに収納時、絡み難くするためバーエンドにクイックリリース金具を付けるといった細かい作りはありがたい。バーとアクセルラインの接続調整用に金具が採用されているため、もう1本アクセルバーを増設する際綺麗に取り付けられる。


ランデイング
 テストも一通り終わり、ランデイングにオーバヘッドすると既にサイドフォローの風が風見をなびかせていた。自然に風下に回りこみ長めのファイナルを切るため、高めでエリアに背を向けアゲインストに機首を向ける。振り向いた瞬間、目線はランデイング手前の雑木を見ることになってしまった。一瞬頭の中を良くないイメージがよぎる。風は3mを超える山からの吹き降ろしである。フルリリースを行いアクセルの使用も考えだす。間もなくグライドパスを追う目はランデイングの角を捉えていた。対気速度を確保しつつ体重移動でアプローチラインを合わす。ぎりぎりまでフレアー操作を行わず、待つ事になる。そしてランデイング。予想したよりかなり少ない地面と足の接触にホッとした瞬間だ。ここで私が気が付いた事はファイナルの瞬間クラス1テストしていた事を忘れていたことだ。しかしぺネトレーションの良さに助けられたのであった。そして、この偶然のテストが対地高度が少ない状態で、より確かなデータを与えてくれる事になった。


グランドハンドリング
 ランデイング後、その場で撮影も兼ねグランドハンドリングを行った。地面に風をはらみ置いてある姿は総てのエアーインテークに均等に力が働き、そのままリバースで上げてみると"するする"と上がり出す。何か頼りない印象さえ受ける。しかし頭上に上がる途中で留めてもそこで安定している。そこから僅かに力を加えると頭上に上がり、そこに留まる。前にかぶるでもなく後ろに落ちるでもなく不思議な印象なのだ。そして自分が予想している必要と思われる力より必ず少ない力で頭上に来て、そして安定する。今までには、同社のモデルの中にも例のないと言ったら大袈裟だろうが事実なのである。これがクラス1の特性なのかと納得する事にした。


最後に
 何人かのパイロットと話す内に何故クラス1のイフェクトが中級者以上のグライダ−なのかと質問を受けた。敢えて言うなら好条件でフライトしたなら降ろす事に技術を要するという事だろう。またクラス1はフラットスピンを起こすので中級向けなのかと質問もあった。確かにコントロール量に見合わない旋回をする味付けがなされたグライダーであれば、1だろうが2だろうがスピンに陥るまでコントロール量を増やすパイロットは存在するでしょう。但し、基本的なバンクと旋回の関係を理解する事でそれは防ぐ事が出来る。例えクラス1で有ろうと事故は防ぐ事は出来ません。考え得る、または手に入れる事が出来る範囲の中で性能と安定性に挑戦したイフェクトはローリスク、ハイパフォーマンスを望む総てのパイロットの良きパートナーになって頂ける事を願います。